『チェンソーマン』レゼはなんて歌ってるの? ロシア語歌詞を和訳してみた

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 こんにちは、東北大言語研究会のhiraです。ドイツ語を勉強中の、漫画好きな大学生です。今回は漫画と言語、ということで週刊少年ジャンプに連載されていた、藤本タツキによる漫画『チェンソーマン』に登場するロシア語を翻訳していきたいと思います。なお私自身はロシア語の知識が一切ないため、今回はこのサイトのカザフ語担当でロシア語もできる、言語研の高岡君に翻訳をお願いしました。

 この漫画を知らない人向けに簡単に解説すると、「チェンソーマン」での日本では「悪魔」と呼ばれる存在が人を脅かし、それを狩るためデビルハンターが戦っています。そんな中で、貧しい暮らしをしてきた少年・デンジが普通の生活を手に入れるため、頭がチェンソーの怪物に変身して悪魔たちと戦う……という作品です。ぶっ飛んだストーリーに印象的な画が反響を呼び、MAPPAによるアニメ化も決定した、いま大注目されている作品です。

 そんな「チェンソーマン」なのですが、ロシア語が出てくるシーンがあるのです。今回はその場面を通じ、言語の世界に触れていきましょう!

 ロシア語が登場するのは「チェンソーマン」5巻に収録されている第43話のとあるシーンです。

 主人公のデンジはカフェで働く少女・レゼに思いを寄せ、そのカフェに頻繁に足を運ぶようになります。親交を深め合う二人は、夜の学校でデートをすることに。しかしデンジとレゼの前に「台風の悪魔」と契約した男が忍び寄ります。二人の命を狙う男ですが……レゼは男を返り討ちにし、殺害。可憐な少女に収まらないレゼの本性が現れる、物語の転機となるシーンです。

 そしてレゼが男を絞め殺す途中、彼女はロシア語で歌を歌い始めます。それが今回訳すロシア語です。画像は著作権的にアウトかなと思い載せませんが……これからその歌詞と、和訳を記していきたいと思います。

ロシア語部分の翻訳

День моего свидания с Джейн(1)
 ジェーンとのデートの日
 Все готово
 全部準備ができている
 Утром мы пойдем вместе в церковь
 朝には(僕たちは)一緒に教会へ行く
 Мы будем пить кофе и есть омлеты в кафе
 (僕たちは)カフェでコーヒーを飲み、オムレツを食べよう
 После того как мы прогуляемся в парке
 その後、(しばらく)公園で散歩をするんだ
 Мы пойдем в аквариум и увиде(2) любимых Джейн, дельфинов и пингвинов
 (僕たちは)水族館に行き、愛しきジェーンとイルカとペンギンを見よう
 После обеда мы отдохнем
 食事が済んだら一休みするんだ
 Итак, что мы сделали утром
 それじゃあ、(僕たちが)今朝した
 Мы будем говорить об этом пока не вспомним
 ことを思い出せる限り話そう
 Мы не вспомним
 (僕たちはこれ以上)思い出さないだろう
 И ночью мы будем спать в церкви
 そして夜には教会で眠ろう

 (1):Джейнはロシア語圏の人名としては一般的ではないために格変化をしません。

 (2):文脈的にувидемあたりが妥当な気がします。

解説(※ネタバレ注意!)

 翻訳するだけでは物足りないので、私なりのちょっとした解説を付け足したいと思います。物語の顛末に触れつつ解説していくので、ネタバレ注意です。

 このロシア語の歌ですが、まずこれは存在しない歌です。おそらく作者・藤本タツキ先生が、独自に作成した歌だと思われます。

 歌詞ではジェーンとの和やかなデートが描かれております。デンジとレゼが一緒にデートをしていた、直前までのシーンと重なりますね。一方でただのデートではないことが、最後の「И ночью мы будем спать в церкви(そして夜には教会で眠ろう)」で示唆されているように思えます。普通のデートでは教会で寝るなんてこと、あるのでしょうか。教会で眠る、それは教会にある墓で眠る、つまり「死」を意味しているようにも思われます。

 まず、なぜレゼはロシア語の歌を歌うことができたのでしょうか。

 6巻に収録されてる第52話にて、デンジの指導役・岸田の口からその真相が語られます。レゼはソ連の出身で、孤児でした。そんな彼女はソ連軍により弾薬庫に閉じ込められ、人権を剥奪された状態で実験体として扱われてきました。そんな生い立ちを持っていたレゼ。ロシア語を話せたことも、彼女の出身国に関する伏線だったのですね。

 そして先ほど歌詞に「死」が描かれているようで示唆的、と話しましたが、実際にこのあとレゼは死亡します。

 レゼの正体は「爆弾の悪魔」が人間と合体した「爆弾の魔人」で、デンジの命を狙っていました。だからこそデンジに接近し、恋仲になったふりをしたのです。そしてデンジとレゼは交戦、デンジはレゼを追いつめますが……偽物の恋とわかってはいながら、デンジはレゼを殺すことはできず、見逃します。そこからレゼは田舎方面に逃走しますが……デンジの上司・マキマがレゼの前に現れ、彼女を殺害。最終的にマキマの底知れない力を示し、いわゆる「レゼ編」は幕を閉じます。

 レゼの歌った歌はデンジとデートしている現在と、死亡するこれからの未来を示していたのかもしれませんね。以上、私なりの独自の考えでした。

まとめ

 今回は漫画「チェンソーマン」に出てくるロシア語を翻訳・解説してみました。漫画好きな方はロシア語に触れてみる機会になったのではないでしょうか。ちなみに私hiraは普段はドイツ語担当で、他にもドイツ語に関する記事をいくつかあげさせていただいております。興味があればぜひそちらも覗いて行ってみてください。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。それでは皆さん、またお会いしましょう!

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