ライター:大柴 英斗
はじめに
salut !
最近は専ら、時計じかけのオレンジの「ナッドサット」の記事の更新ばかりしていましたが、久しぶりにフランス語楽曲の歌詞和訳をしていきます。
今回扱うのはコリーヌ・マルシャンの歌う ≪ Sans toi ≫ です。
作詞はAgnès Varda (アニエス・ヴァルダ)、作曲はMichel Legrand(ミシェル・ルグラン)です。

アニエス・ヴァルダによる映画「5時から7時までのクレオ」の劇中で、主人公クレオを演じたコリーヌ・マルシャンが歌い上げるこの曲。そのシーンにはミシェル・ルグランもピアニスト役で出演しています。

映画内で、ガン検査の結果を待ちながら、自身の不安と孤独に苛まれるクレオの心情を表した、美しく切ない曲になっています。
フランス語歌詞/和訳
Toutes portes ouvertes
全ての窓は開いて
En plein courant d’air
風の流れの只中で
Je suis une maison vide
私は空き家のよう
Sans toi, sans toi
あなたなしで、あなたなしで
Comme une île déserte
海を覆い尽くす
Que recouvre la mer
捨てられた島のように
Mes plages se devident
私の浜辺は削り取られる
Sans toi, sans toi
あなたなしで、あなたなしで
Belle, en pure perte
全く無益の女
Nue au coeur de l’hiver
真冬の裸
Je suis un corps avide
私は飢えた身体
Sans toi, sans toi
あなたなしで、あなたなしで
Rongée par le cafard
憂鬱に苛まれ
Morte, au cercueil de verre
ガラスの棺の中で死んでいる
Je me couvre de rides
私はしわに覆われて
Sans toi, sans toi
あなたなしで、あなたなしで
Et si tu viens trop tard
もし、あなたが来るのが遅すぎれば
On m’ aura mise en terre
人々は私を地面に埋めるだろう
Seule, laide et livide
孤独で、醜く、青ざめて
Sans toi, sans toi
あなたなしで、あなたなしで
Sans toi
あなたなしで
解説
en pure perte
perteは損失とか、無駄という意味。それにpure、そのまま「純粋」がついて、純粋な無駄、「まったくの無駄」みたいな意味になります。
au coeur de
coeurには心臓や心、という意味があり、「中心」のようなニュアンスがあります。そのため、冬を意味するhiverをつければ、「冬のまっただ中」「真冬」のような意味になります。
par le cafard
parは「~によって」を表す前置詞。ここでは le cafardによって苛まれている、と言っている訳です。cafardには「憂鬱」の他に、「ゴキブリ」という意味が。憂鬱とゴキブリが同じ単語なのは面白いですね。ゴキブリいたら憂鬱だもんね。
On m' aura mise en terre
aura mise は両方とも原型に戻すとavoir mettre です。直説法前未来という用法です。ここでは、「もしあなたが来るのが遅すぎれば」と言っていて、そのあなたが来た瞬間には私はもう土に埋められてる、ということを言いたい場面です。
「あなたが来る」のも「私が土に埋められる」のもまだ未来のことだけれども、「あなたが来る」という時点には「私が土に埋められる」のは、過去のことになっている。そのような状況なので、直説法前未来が使われています。
Seule, laide et livide
これは単純な形容詞の列挙で、訳は上述の通り。
何故取り上げたかというと、形に注目。全て女性形になっています(語尾にeがつけられています)。このような形容詞からも、この歌の主人公が女性であることが分かります。
終わりに
今回は ≪ Sans toi ≫ を翻訳してみました。
少し詩的な歌詞でなかなか翻訳が難しかった。ここ違うんじゃないの?みたいなのあったら、言語研Twitterか大柴のTwitterのDMまでどうぞ。
自分の好きな曲とか、訳したい曲を訳しているので、あんまり新しい曲を紹介できなくてすみません。(新しい曲は詳しくないもので…)
何かいい曲がないか探しておきます。
では、また次回。
記事の記載内容については、調査や筆者自身の体験に基づいています。筆者自身の私見によって、「このように解釈すると良い」という内容を書く場合もありますが、厳密性を欠く場合がございます。誤った内容は記載しないよう気をつけていますが、もし誤りを発見されましたら、ご連絡くださると嬉しいです。